『永遠の都』全七巻 加賀乙彦著
 すっかりあけちゃいましたが、今年もよろしくお願いいたします。

加賀乙彦氏の「岐路」「小暗い森」を読んだのが十数年前。その後、続きを読まないまま数年がたち「永遠の都」というタイトルで文庫版としてまとまって出ているというので揃えたのが5年くらい前。そして昨年の晩秋あたりから続きを読み始め昨夜、ようやく全七巻を読み了えた。いはやや、足掛け何年かかったのかしら。
ようやく読了したと思ってネットで調べていたら、もうこの物語の続編「雲の都」がどんどん出ている。うわー。
そんな怠惰な読者だけれど、高校生のとき、初めて読んだ加賀さんの小説が「フランドルの冬」で、それ以来、ちょこちょこ細く長く読み続けていることになる。これは、わたしの行き当たりばったりの読書歴の中ではかなり特殊なことだということに、今回はじめて気づいた。(その頃読んだ「帰らざる夏」の主人公は「永遠の都」の悠太と重なる)。

それにしても、長編小説というのはこのように骨太で面白いものだったのかと、しみじみ感じ入った。長く読んでいると物語の中の登場人物と一緒にその時代を生きているような心地になり、登場する人物が投影されて自然と脳裏を動き回る。一旦本を離れても、またページを開けば、すぐその世界に引き戻される。文章の力というのはすごい。
最後の7巻はほぼ二日で読了。途中で本を閉じることができず、深夜まで読み続けたせいか、今日は首筋が痛んで、参った。

昭和10年から22年までの東京が舞台。山陰の漁師の子ながら苦学の末、東京、三田で開業した医者、時田利平の家族を軸に、多種多様な人たちが登場する。この利平が破天荒、強烈な個性の持ち主で、楡家の人々の楡基一郎氏を彷彿とさせる。(北杜夫氏と同様、加賀乙彦氏も医者で、精神医学と犯罪心理学の権威でもある)。

多種多様な登場人物と同じく、小説話法も実に多彩で、客観的な三人称形式、どんどん変わっていく語り手、日記や手記、書簡など次々と繰り出されてくる。そして、重層的な時間。ひとつの出来事が、様々な目から語られる。長く読んでいる間に、あれ、このシーンは一度読んだという既視感におそわれるのだけど、それは同じ事象が以前とは違う人物の目から書かれたもの。そうやって多層的、多面的にひとつの事象が深く描きだされていく。

時代の空気や東京の大空襲の様、激烈な空腹や身体的な痛み、そしてそれぞれの人物の心の動きが雄弁に語られ、それはどんな映像よりも力を持っているように思えた。それぞれ強烈な個性を持った人たちの生き様、死に様。悲しい死もあれば、生まれてくる命もある。

事実は小説より奇なりというけれど、その奇(くしび)なる現実をそのまま小説にしたと言ったらいいのか、人生や世界がひとつひとつの小さな事象や瞬間瞬間の時間の集合体であるとしたら、そのひとつひとつを丁寧に描くことによって世界を再構築しているといったらいいのか、そんな重量感のある、ほんとに骨太な小説世界を堪能させてもらった。

ごくわずかの人たちが先導して始まってしまった戦争で人々の生活は一変し、営々と築き上げてきた都も崩壊する。悠太は思う。

人間の作ったものはかならず滅びる。永遠の都、そんなものは幻想に過ぎない、そして、草原のように平らな木造家屋の街は消え、突兀とした石と鉄の街を、ぼくにとっての異郷を、いつかは故郷と呼ばねばならないと、ぼくは予感した。(第七章「異郷」)

戦争は何もかも破壊したが、人間の時間だけは破壊できない。卓袱台の凸凹を撫でながら、ぼくは自分が生きてきた時間だけは、何としても守り抜きたいと思っていた。(第七章「異郷」)

後半にわかに重要人物となっていく間島五郎が大松寺の和尚とかわす問答。

戦争とは国と国との殺し合いですね。日本人もアメリカ人も悪人でしょうか。
善人であろうとして人を殺しておる。悪人よりもなお始末が悪い。
でもみんな日本が正しく相手が間違ってると言ってます。
相手も同じことを言ってるだろう。おのれを善人と錯覚する心が人を地獄におとす。戦争をおこす。つまり戦争とは、善人の心が作りだした地獄なのじゃ。(第八章「雨の冥府」)

小説の中で、様々な議論がおこり人々は意見を戦わせる。しかし、どの人物の生き方が正しいとか、そういったことはけして語られない。解説に記されているように「作者よりももっと高次の存在の手に委ねられてでもいるかのよう」だ。
わたしも、読みながらああだこうだと様々なことを考え、登場人物にたいしてもそれぞれに正邪、好悪を感じていたはずなのだが、最終章の「雨の冥府」を読み進むうちに、それらが全部溶けていくような感覚におそわれた。そしてそういったことがもうどうでもよくなってきて、その混沌を(現実そのものの混沌を)そのまま深く深く、いつまでも味わっていたいような気持ちになった。そしてその混沌のなかに光るものをひとつ見つけて、昨夜はひとしきり泣いたのだった。

| phoebe | 23:38 | comments(1) | trackbacks(0) |
Merry Christmas!
ちょっと、画像だけでもクリスマスの雰囲気に♫


来年の干支、龍なんかもいますね。


おいしそうです。りんご飴ならぬ、さくらんぼチョコでしょうか??

| phoebe | 21:16 | comments(2) | trackbacks(0) |
ガーデニングワールドカップ 2011 
すっかりブログを放置しておりました〜。

何か、再開のとっかかりにアップせねばということで、先週のエル・ムンドでも紹介されておりました、ハウステンボスでのガーゲニング・ワールドカップ見学など。

今回は、ハウステンボスのフリーゾーン内にあるパレス前のメイン会場(ショーガーデン部門)とは別に、テンボス内でスモールガーデンの展示もあったのですが、入場料が高くなるのでパス(涙。メイン会場のみを回ってきました。この催しと相性がいいのか、今年も昨年同様すばらしい快晴に恵まれ、各国のガーデナーの庭や、寄せ植えの展示、ハンガリーからのミュージシャンによる野外コンサート、パレス内の絵画展まで、めいっぱい楽しんで参りました。

パレスの上に広がる、見事に青い空。
秋の光はなんとも透明感にあふれてます。


さて、ショーガーデンの数々。

日本人ガーデナー、藤原良治さんの作品。宮沢賢治が残した「Tearful eye(涙ぐむ眼)」という花壇のデザイン画をもとに作られた、まさに眼の形をした庭。周囲の繊細な植栽がすてきでした。

次は石原和幸さんの作った「茶の庭」
これは、奥の部分で全体の写真がうまく撮れてないのですが、動く水の影が映る部屋でお茶を点てたらよいだろうなあ。これも繊細な植物の組み合わせによる周囲のリズム感がすてきで、秋明菊や、だん菊などなど、和のテイストがふんだんに。

アメリカ、ジョン・カレン氏の「心をひとつに」大きな輪でふたつの違ったものをつなぐイメージ。

イギリスのジョナサン・デンビー氏の「Mr.マクレガーの庭」野菜畑から、ピーターラビットが顔を出し、家の外には冬支度の薪が。女性に人気w。

南アフリカのデイビッド・ダビットソン氏の作品。

マレーシアのリム・イン・チョング氏による「三つの庭」。

などなど、個性的な庭がずらり。

しか〜し、実は今年、一番よかったのは、ハンガリーからのミュージシャンによるコンサートでありました(笑。いやー、名前の紹介すらなかったけど、ピアノとバイオリンとベースによる演奏、午後2時からと4時からと2回たっぷり聴いてきました。めっちゃ上手、きれいな音、でもってすんごい楽しそうに弾いているのが何より素敵。動画もとったんですが、アップできないみたいで(涙。

秋の透明な光にすいこまれていくような、なんともすてきな音色でありました。



| phoebe | 20:22 | comments(2) | trackbacks(0) |
『遠い朝の本たち』須賀敦子
他の本と並行して読み進めていた須賀敦子の『遠い朝の本たち』、ようやく読了。徹底して磨き上げられた言葉が並んでいて、すごい質量を持った文章。同じ1ページでも、さらっと読める本がビーチボールとすれば、須賀さんのは鉄球くらいに重たい気がして(もちろん、重い軽いが、良い悪いに結びつくものではない)読む速度は、かたつむり並になってしまう。

そういう須賀さんの文章に、大層惹かれながらも、時に息苦しさ(というか近寄りがたさというか)を感じることもあり、遅読のわたしは、一冊読むのにも悪戦苦闘。とても好きなのに、あまりたくさん読めていない。

この本は須賀さんが生前、最後まで手を入れ続けた作品とのこと。結晶を思わせる文章はとにかく美しい。幼い頃の読書がいかに彼女の今を形作ってきたか、瑞々しい少女時代の回顧とともに、それら愛すべき本や人たちが語られる。幼い日々を描いているせいか、今まで読んだ須賀さんの文章とは、すこし趣が異なるように感じる。いい意味での日本的な湿度が、親しみをもつ’スキ’を作ってくれているようだ。本に夢中になった少女時代を持つ人ならば、どこかに自分を重ね、懐かしい思いにかられるに違いない。

豊かな自然の中で遊んだり、大きな空き家を探検するくだりを読むと、自分が小さい頃、神社の森で遊び、裏山を駆けまわり、近くの空き家の庭を基地にして遊んでいた懐かしい日々が重なる。

引用したくなるところだらけなので、困ってしまうのだが

調布で会ったとき、大学のころの話をして、ほんとうにあのころはなにひとつわかってなかった、と私があきれると、しげちゃんはふっと涙ぐんで、言った。ほんとうよねえ。人生ってただごとじゃないのよねえ、それなのに、私たちは、あんなに大いばりで、生きてた(しげちゃんの昇天)。

と須賀さんに語ったしげちゃんは、その後ひと月もたたないうちに息をひきとった。そして「父ゆずり」の章では、

いま、私は、本を読むということについて、父に長い手紙を書いてみたい。そして、なによりも、父からの返事が、ほしい(父ゆずり)。

という結びが、なんだか胸に迫る。

アン・モロウ・リンドバーグの著作について書いた「葦の中の声」では

アンは、女が、感情の面だけによりかかるのではなく、女らしい知性の世界を開拓することができることを、しかも重かったり大きすぎる言葉を使わないで書けることを私に教えてくれた。徒党を組まない思考への意志が、どのページにもひたひたとみなぎっている(葦の中の声)。

徒党を組まない思考(!)という言葉には、思わず、目からウロコが10枚くらい落ちたかも。

「ひらひらと七月の蝶」では、近所に住んでいた俳人を語り「ダフォディルがきんいろにはためいて……」では、ワーズワースやイェーツの詩が語られる。

しっかり閉じたまぶたのなかで、私たちが太陽そのもののようなダフォディルの群れを夢みていたのは、そんな隅っこの寒々とした教室でだった。将来なにをすればいいのかさっぱり見当もつかない分だけ、いつもおなかがすいていた分だけ、群がり咲く詩のなかのラッパズイセンは金色にかがやき、さわさわと木かげの風に揺れた(ダフォディルがきんいろにはためいて……)。

こうした蓄積が、あのサバの詩集の翻訳につながっているのだなあ。

幼いときの読書が私には、ものを食べるのと似ているように思えることがある。多くの側面を理解できないままではあったけれど、アンの文章はあのとき私の肉体の一部になった。いや、そういうことにならない読書は、やっぱり根本的に不毛だといっていいのかも知れない。(葦の中の声)

幼いときの読書は、たしかに、肉体化すると思う。それらの養分はそのあとの人生の根っことなるのだろう。「それは、肉体の一部となり、精神の羅針盤になった。」という帯の言葉がずっしり重い。若いときにもっともっと溺れるように本を読んでおくんだったなあ、という後悔が喉元までせりあがってくる、夏の朝。
| phoebe | 10:10 | comments(2) | trackbacks(0) |
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