二都物語ふたたび  東山魁夷展―本当の「あお」に出会う

  • 2018.10.15 Monday
  • 22:15

JUGEMテーマ:アート・デザイン

 

今回の旅は、この東山魁夷展が主目的。この展覧会を見た友人から、ぜひ見たほうがいいと勧められ、会期終了間際に京都での鑑賞が叶った。
 

 

荷物をロッカーに預け、ゆっくり階段を上って、さあ、と入口を入った途端、目に飛び込んできたのが最初の作品「残照」。これを見た瞬間から何かこみあげてくるものがあって、涙が出てしまって参った。自分でもびっくりしたのだが、あとで図録の説明をよく読んで、これが画家が戦争前後に妻以外の身内を失いどん底にいたときに出会い、そこを抜け出すきっかけとなった一枚であることを知り、絵にこもったものが何かこちらに伝播したのだなあと納得したことだった。

 

そこから昭和36年ごろまでに描かれた「道」や「秋翳」など力のこもった風景画が続く。

 

その次は、北欧を描いた作品。「冬華」の白や「白夜」の青が印象的だったが、なんといってもフィンランドの森と湖を描いた「白夜光」の静けさには深く心打たれた。湖にうっすらとたたえられた光と深い森の静寂。しばらく世界に浸っていた。

 

そして古都を描く、と題し京都を描いた作品の数々や、ドイツ・オーストリアを描いた作品などが続く。「月篁」の月の光の表現や「春雪」のやわらかな雪の感触、「年暮る」では京都の街並みに静かに雪が降りつづく。ドイツ・オーストリアを描いた作品では、緑の鮮やかさが印象に残った。

 

白眉は唐招提寺の障壁画で、モノクロームの作品「黄山暁雲」「桂林月宵」「揚州薫風」からその風景の空気まで漂ってきそうで、ため息をつきながら、作品の世界に心遊ばせた。そしてこちらは彩色された「山雲」の雄渾な世界に目を見張り、足を進めて次の「濤声」を見て息がとまりそうになった。これは絵なんだろうか、何か、そこにほんとうに海が広がっているような気がして、しばらく茫然としてしまった。美しい海の色、今ここで動いているような波。「濤声」にふたたび涙がこぼれそうになった。

 

そのあとの作品にも「白い朝」や「秋思」などすてきな作品があったけれど、障壁画の余韻がずっと続いていた。

 

構成上、東山魁夷展を出てからほかの作家の作品が並んでいるコーナーを通って出口へ向かうのだが、どこからか「あああ、あの青がどこかへいっちゃうから、ここは見ずに早くでよう」って言っている人の声が聞こえてきて、なるほどなあと。

 

会期終了間近とあって、観覧者はとても多かったのだけれど、絵と対峙している間はそれがまったく気にならず、不思議なことに、すごく静かなところで鑑賞したような錯覚すら覚える。どこまでも、静かで透徹した、しかしあたたかな世界が広がっていた。「残照」と「白夜光」と「唐招提寺の障壁画」を間近に見ることができたことに手を合わせて感謝したいような気持になった展覧会だった。

 

現在は東京にて開催中。

二都物語ふたたび 神戸「プラド美術館展」

  • 2018.10.12 Friday
  • 18:16

JUGEMテーマ:アート・デザイン

お誘いいただいて、秋の二都物語パート供∈2鵑禄三人、美術館を巡る旅を楽しむ機会に恵まれました。

一日目は兵庫県立美術館で、プラド美術館展。正直に言うと、それほど興味はなかったのだけれど、ベラスケスはやっぱり良かった。

快晴の道を歩いて美術館へ。

 

一枚目、ベラスケスの描いた「ファンマルティネスホントニェスの肖像」。暗い背景、黒い衣装の深い色の中に浮かび上がるのがその人の顔。人間の内面を描きだすベラスケスの筆の見事さ。

 

芸術、知識、神話、宮廷、風景、静物、宗教の各章の分かれた展示。知識の章では、同じ哲学者を違う画家が描いているのを見比べるのが面白かった。神話では、ベラスケスの描いたなんとも不思議な「軍神マルス」。勇ましい戦いの神様というより、そこらへんのくたびれたおじいさんが、昨夜の深酒を悔やんでいるような疲れたご様子。兜とかが立派なだけにその対比に虚をつかれる。でも、これがベラスケスのすごいところなのかも〜。一度見たら絶対忘れられないマルスです。

 

ルーベンスも登場、かなり大きな絵が続く。宮廷の章では、ベラスケスによる「狩猟服姿のフェリペ4世」や「バリョーカスの少年」。ファン・カレーニョ・デ・ミランダの描く「甲冑姿のカルロス2世」とフェリペ4世はうりざね顔に分厚い唇がとてもよく似ている、そばで鑑賞していたおばさま方から「この人たちはもう血族結婚の嵐やろうねえ、そりゃ似た顔になるわねえ」との声あり。う〜ん、歴史は全く知らないけど、ほんとに似てる。アントニオ・デ・ペレーダの「ジェノヴァ救援」も、細部の描写や質感、色彩の美しさが圧倒的だった。

 

風景の章ではいよいよ「王太子バルタサール・カルロス騎馬像」が登場。カルロス王太子4〜5歳頃の肖像とのこと。あどけないながら風格ある王太子の姿と衣服のきらめき、ブルーが美しい背景とあいまって、すてきだった。この王太子16歳(だったかな)で夭折されたのですね。もう35年近く前に見た「ラス・メニーナス」の感動がすこしよみがえってきた。

デニス・ファン・アルスロート描くところの「ブリュッセルのオメガングもしくは鸚鵡の祝祭・職業組合の行列」は、その名の通り、横幅3828センチの大きな絵の中に、行列とそれを見る人たちがすさまじい数描かれていて、この絵の前は鑑賞者が大混雑(笑。ウォーリーを探せ状態の絵は見れば見るほど面白かった。それぞれの職業組合の旗だろうか。様々な旗を持った人に続いて歩く行列が延々と描かれている。かわいい男の子がおばあちゃんに「一番前の列は60人!」と律儀に報告している声が聞こえた。最前列が一番大きく描かれ奥へ行くほど細密になり、窓から乗り出す人たちにいたっては米粒くらいの大きさだ。何人いるか数えた人がいたらぜひ教えてほしい。

 

そのあとの静物画では、ブドウの細密な描写に圧倒される。もいで食べたら甘い果汁が口に広がりそうなほど。

 

見終えた後は、ほーっとため息。絵を鑑賞するのもなかなか体力が要ります。その日のうちに京都へ移動開始!

『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』

  • 2018.09.11 Tuesday
  • 22:18

JUGEMテーマ:アート・デザイン

恵比寿から、帰路に着くために東京駅へ。そこで『生誕100年 いわさきちひろ、絵描きです。』を見ました。移動の必要がないので、新幹線に乗るまでの少ない時間でも鑑賞ができるのがありがたい。ステーションギャラリー、初めてでした。

 

いわさきちひろというと、きれいな淡い色合いの花やこどものかわいさ、という印象でしたが、どこかでその生涯にはたくさんの困難もあったということを聞いたことがあり興味を惹かれました。

 

丹念に絵描きいわさきちひろの生涯を追ったすてきな展覧会で、彼女の生涯と作品制作の様子や苦悩までボリュームたっぷり。

 

恵まれた少女時代、とても自由で先進的な教育を受けた女学校時代。その後のつらい戦争の時代。戦後、共産党員として活動し同じ党員の夫と出会い結婚してから。どんなときも生涯に渡って絵を描き続けていた彼女。

 

とても器用だったちひろが、自身で縫ったワンピースや、海外から家族に宛てた絵葉書や、愛用の品物も展示されていました。びっくりしたのは左利きだったということ、初めて知りました。

 

数年、環境的に絵が描けない時期に、藤原行成流の仮名文字を習ったそうで、それは右手で書いたそうです。それもわずか数年で先生の代わりをするほどの腕前。やはり何をやってもすごい人だったのですね。彼女が絵を描き、そこにかな文字で文章をしたためた手紙の展示には舌を巻きました。繊細で優美なかな文字の美しさといったら。羨望がうずまきます(笑。

 

そして、ちひろ自身も大好きだったアンデルセンの挿絵の「マッチ売りの少女」と「赤い靴」に胸を打たれました。アンデルセンの物語世界の核心を絵にして取り出したような力のある絵でした。ちひろがとてもアンデルセン童話を愛していたのが伝わってくるようでした。

 

新しい技法や、テーマなど様々な模索を続けながら描き続けたちひろの人生、すてきです。

 

それにしても、画家の一生を追った展覧会というのはほんとに面白い。最近では絵本画家の林明子、ムーミンの作者トーベ・ヤンソン、そしていわさきちひろ。そこには何か共通の創作に対するひたむきな強さを感じ、深い尊敬の念が湧いてきます。創作というのは喜びであるとともに、途方もなく苦しくて孤独な闘いでもあるんだろうなあ。

 

まだまだじっくり見たかったのですが、新幹線は待ってくれません。お土産も買わねばなりません。巨大な東京駅で迷ったら大変です。赤レンガと最新設備がうまく調和したステーションギャラリーをあとに帰路についたのでした。

 

『恋しぐれ』(葉室麟)と呉春の『白梅図屏風』

  • 2018.03.05 Monday
  • 22:13

JUGEMテーマ:読書

毎月テーマ本を決め数人の仲間と読書会のようなものを楽しんでいます。葉室作品を何か一冊読みましょう、ということになったのが昨年の秋でした。『蜩ノ記』や『銀漢の譜』『いのちなりけり』など何冊か読んでいたけれど、せっかくだからこの機会に何か読もうと手にしたのが『恋しぐれ』、表紙の絵にとても心惹かれたのです。

 

それまで読んだ武士ものとは一線を画し、柔らかな印象。与謝蕪村を中心に円山応挙や上田秋成、蕪村の弟子月渓(呉春)などが登場し、様々な切り口で語られる話が繋がって、ひとつ大きな物語となります。蕪村のあたたかみや大きさ、円山応挙のまっすぐな明るさ、ちょっと皮肉屋の上田秋成。ほんとうにこんな風な会話が繰り広げられていたのだろうなあと想像すると楽しい。

蕪村の五十近い年齢差をも超える一途な恋、月渓の哀しい恋、そのほかにも様々な人の人生や恋情が交錯、ほろ苦く切ない恋もあり、命を落とすほどの恋もあり。どのエピソードにも作者の温かいまなざしが感じられます。

師匠である蕪村の辞世の句『白梅のあくる夜ばかりとなりにけり』をもとに月渓(呉春)が描きあげたのが『白梅図屏風』。表紙絵はその絵の一部だったのでした。

 

⇒『白梅図屏風』について

 

読後、この絵はどこに所蔵されているのか調べていたところ、逸翁美術館で二月に展示されることを知り、今回呉春の白梅に逢ってきました。実に味わい深く清々しい、吸い込まれてしまいそうな絵でした。

藍で染められた布のグラデーションが絶妙で、その布の色がそのまま紺碧の空の色になり、そこに描かれたきらめく星のような可憐な白梅がすごく切ない。濃く薄く描かれた枝々が奥行き感を見事に表現しています。

 

全体に漂う静謐で温かい空気感。蕪村の『夜色楼台図』の醸し出すものと共通の世界がそこに在りました。呉春が師匠の蕪村をどれほど慕っていたか、絵がそれを語っているように感じました。

 

その真向かいには応挙の『雪松図屏風』の習作である『雪中松図屏風』が展示されていて、その堂々とした明るい存在感と、どこまでも静かで奥行きのある呉春の絵の対照が実に際立っていて、いい展示だなあと。

 

 

厳しい冬が明けかけたころにほころびる梅の花。いい花ですね。

 

 

評価:
葉室 麟
文藝春秋
¥ 19,051
(2011-02)

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