『恋しぐれ』(葉室麟)と呉春の『白梅図屏風』

  • 2018.03.05 Monday
  • 22:13

JUGEMテーマ:読書

毎月テーマ本を決め数人の仲間と読書会のようなものを楽しんでいます。葉室作品を何か一冊読みましょう、ということになったのが昨年の秋でした。『蜩ノ記』や『銀漢の譜』『いのちなりけり』など何冊か読んでいたけれど、せっかくだからこの機会に何か読もうと手にしたのが『恋しぐれ』、表紙の絵にとても心惹かれたのです。

 

それまで読んだ武士ものとは一線を画し、柔らかな印象。与謝蕪村を中心に円山応挙や上田秋成、蕪村の弟子月渓(呉春)などが登場し、様々な切り口で語られる話が繋がって、ひとつ大きな物語となります。蕪村のあたたかみや大きさ、円山応挙のまっすぐな明るさ、ちょっと皮肉屋の上田秋成。ほんとうにこんな風な会話が繰り広げられていたのだろうなあと想像すると楽しい。

蕪村の五十近い年齢差をも超える一途な恋、月渓の哀しい恋、そのほかにも様々な人の人生や恋情が交錯、ほろ苦く切ない恋もあり、命を落とすほどの恋もあり。どのエピソードにも作者の温かいまなざしが感じられます。

師匠である蕪村の辞世の句『白梅のあくる夜ばかりとなりにけり』をもとに月渓(呉春)が描きあげたのが『白梅図屏風』。表紙絵はその絵の一部だったのでした。

 

⇒『白梅図屏風』について

 

読後、この絵はどこに所蔵されているのか調べていたところ、逸翁美術館で二月に展示されることを知り、今回呉春の白梅に逢ってきました。実に味わい深く清々しい、吸い込まれてしまいそうな絵でした。

藍で染められた布のグラデーションが絶妙で、その布の色がそのまま紺碧の空の色になり、そこに描かれたきらめく星のような可憐な白梅がすごく切ない。濃く薄く描かれた枝々が奥行き感を見事に表現しています。

 

全体に漂う静謐で温かい空気感。蕪村の『夜色楼台図』の醸し出すものと共通の世界がそこに在りました。呉春が師匠の蕪村をどれほど慕っていたか、絵がそれを語っているように感じました。

 

その真向かいには応挙の『雪松図屏風』の習作である『雪中松図屏風』が展示されていて、その堂々とした明るい存在感と、どこまでも静かで奥行きのある呉春の絵の対照が実に際立っていて、いい展示だなあと。

 

 

厳しい冬が明けかけたころにほころびる梅の花。いい花ですね。

 

 

評価:
葉室 麟
文藝春秋
¥ 19,051
(2011-02)

遅れてきた二都物語 その3 京都国宝展 後編

  • 2017.12.04 Monday
  • 20:30

そして、書。実は今回一番感動したのが書でした。お習字を習っていることもあって楽しみではあったのですが、想像を超えていました。

 

ずらりと居並ぶ作品たち。

宋高宗筆「徽宋文集序」高潔な気品ある字に惹かれました。後鳥羽天皇が死の13日前に書いた「宸翰(しんかん)御手印置文」の字には風格があり、朱で押された手形がずっしり心に残ります。そして力に満ちたさすがの空海、楷書、行書、草書の三体がそろった小野道風「の三体白氏詩巻」、自由奔放な藤原佐理の「詩懐紙」ときて、藤原行成の「白氏詩巻」うわあ、この字好き!優美な曲線がなんとも素晴らしい、と思っていたらその次に来た伝藤原行成「仮名消息」、これに完全にノックアウトされてしまいました。

 

伸びやかな線、まるでついこの間書かれたような墨跡(実際には1000年くらい前ですが)、生き生きとした流麗なかな文字が美しく散らし書きされ、その画面いっぱいに広がるエネルギーがきらきらとこちらを圧倒してくる。紙背に書写された三宝感応要録も透けて見えて、混沌とした文字の宇宙のような……感じ入っているうちにふいに涙が出てきて、自分でもあわててしまいました。幸せな時間だったなあ。この仮名消息は鳩居堂さんご所蔵ということですので、博物館とかでお目にかかれる機会は少ない作品だったかもしれません。鳥取に戻ってから、もう一度確認したいと図書館にこもって印刷されているものを探しましたが、なかなかないのです。ともあれ、すごい作品との出会いに感謝した次第。ほんとうに京都まで足を伸ばしてよかった。

鳩居堂のこちらのページに仮名消息が掲載されています。

 

国宝たちに圧倒されてよろよろと夢見心地で外へ出たらすごく寒くて、道に迷ってたどり着いた清水一芳園で、まぐろのづけ丼を。これがまた大変美味でした。香ばしいほうじ茶と、あつあつの美味しい出汁でしっかり温まりました。が、ここほんとはかき氷やパフェが有名なお店らしいです(;^_^A

 

おなかがあったかくなったところで、あと一つ二つお寺を訪ねる元気が復活。

JUGEMテーマ:アート・デザイン

 

遅れてきた二都物語 その2  京都国宝展 前編

  • 2017.12.04 Monday
  • 19:21

翌日は、気合いれて京都へ。すごく混雑しているという「国宝展」。しかし作品の一覧を見ると、与謝蕪村の「夜色楼台図」が展示されているではないですか、これは見たいと一念発起。開館15分前に着いたときにはすでに会場の外まで長い列が。やっぱりかぁ〜と思いつつ並びました。加賀からいらしたというお隣のご婦人と話が弾み「すごい人ですね〜」と話していたら、後ろにいた地元の方が「私は4度目だけど今日は少ない方ですよ、すぐ入れます」とのこと。待ち時間もたいそう楽しく過ごせました。

入場すると案内の方が、順路関係なく自由にご覧くださいと言われるので、二階の絵画の展示室へまっしぐら。まだ人が少なかったのでお目当ての「夜色楼台図」をガラスにへばりついて鑑賞。墨だけでこんなに奥深い優しいあたたかい絵が描けるんだなあ、雪の夜の絵なのにこのぽかぽか感はなんだろう、じーん。作者と対話しているような気分になる絵でした。振り返ると円山応挙の「雪松図」あああ、これもすごい〜。雪を描かずして雪を出現させる技術と、スケールの大きさ!そして奥にはザッツ琳派、尾形光琳の「燕子花図屏風」。豪華この上ない色彩と素晴らしいリズム。ゴージャスすぎてぽゎーっとなってしまうような空間でした。

 

さあ、残りを見るかなとのんびり動き始めたのですが、さすがすべて国宝、他もすごかった。書き始めるときりがなくなりそうですが、まずは「平家納経」。この小さな巻物にちりばめられた豪華さは何⁉思わず、老眼鏡を取り出し、これまたガラスにへばりついて端から端まで堪能。本物のもつオーラはすごい。有名な源氏物語絵巻もあったのですが、ここは人の波に負けて、そこまで近づけませんでした、とほほ。気品あふれる源頼朝はじめ3つの肖像のすばらしいこと。そして、土偶と縄文式土器に窯変天目!ゴージャスすぎますねえ。縄文式土器や土偶に、教科書以外でお目にかかれるなんて想像もしませんでした。こういうのを見ていると時間と空間の不思議を思わずにはいられないですねえ。

 

しかし、この後まだまだ感動の出合いが待っておりました、おそるべし「国宝展」。

絵本のひきだし 林明子原画展

  • 2017.09.28 Thursday
  • 20:50

JUGEMテーマ:アート・デザイン

鳥取歴史博物館(やまびこ館)で「絵本のひきだし 林明子原画展」を見てきました。たしかうちにあった林さんの絵本は「おつきさまこんばんば」「おふろだいすき」「まほうのえのぐ」「きょうはなんのひ?」の4冊だったかなあ。子どもたちに読み聞かせたのを懐かしく思い出しました。ことに「おふろだいすき」と「おつきさまこんばんは」は何度読んだことやら。

 

その当時も、絵本からにじみ出てくるようなあたたかさ、子どもの体温や心情が直接こちらに伝わってくるようで、とても好きな絵本だったのですが、その感覚が原画で見てますます強くなりました。緻密な積み重ねから生まれるあたたかな世界を実感。

ほんとうに子どもが大好きな方なのですね〜。いや、そうでなければあの愛にあふれた絵が描けるわけがないですね。恥ずかしがり屋だったという林さんに絵を習わせてくださったご両親に感謝です。

 

そして実際の絵をつぶさに見ながら、どんな技法が使われているのかもすごく興味をひかれたのでした。珍しいペン画の展示もあり、その細密で見事な出来栄えに感嘆!

「こんとあき」は林さんの代表作だそうで、林さんのおばあちゃんが鳥取に住んでおられたことから、鳥取砂丘が舞台になっています。いいお話。こんの尻尾に包帯を巻いてくれるシーンとか、おばあちゃんのとろけそうにあたたかで柔らかな笑顔が、なんとも言えずすてきでした。

 

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