『とりつくしま』東直子

  • 2018.06.05 Tuesday
  • 22:13

JUGEMテーマ:読書

ぼつぼつと、ここ一年に読んだ本のことどもなど。

 

昨年の五月に読んだ東直子の『とりつくしま』。とてもよい本だった。じんわりしみじみ。思わぬことであの世に来てしまい、俗世に未練がある人たちの前に現れる、とりつくしま係。とりつくしまを探している人を一目で見分け「何にとりつきますか?」と問うてくる。ただしとりつけるのは、モノ(無生物)に限るのだ。野球をがんばっている息子のロージンバッグになるお母さん。息子の成長をマウンド横で見届けながら、最後は消えて(消費されて)いく。夫のマグカップになる妻、恩師の扇子になって夏の間だけ、そばにいて風を送る教え子。マッサージの椅子になるお父さん、憧れの図書館員のネーム札になるホームレス。母親の補聴器になる娘。青いジャングルジムになる小さな男の子。実に様々な人が様々なモノにとりつく。どちらかというと、切ない中にも、ああよかったとほっこりできるお話が多い。が、母親の補聴器になった娘さんの話なんぞは、実に苦い悲しみが残る。

 

どのお話も、個性描写が実にうまい。人を深く見る目の確かさ、あたたかさ。文章もしっとりして美しい。東さんは歌人だと聞いて、納得。ひとつひとつの言葉の選び方がぴたっとはまっている。それぞれのお話の主人公の人生のひとかけらが描かれているだけなのに、その余白にその人の人生がふんわりとふくらんでいく。

 

余談だけど、夫のマグカップにとりつく彼女は、夜、ピルクルが飲みたくなってコンビニに向かっている途中に事故に遭う設定だった。実は私ピルクルを知らなかった。ピルクルって何?ピルクルってどんな飲み物?と頭でピルクルがぐるぐるしていたとき、ものすごいタイミングで、ある方からピルクルをもらって、それはそれは驚いた。生まれて初めて飲むピルクルがこのタイミングで来るのか……。念じれば通じる?じゃ、当選した宝くじでも頭の中でぐるぐるさせてみようか、などとつまらない妄想がふくらむ梅雨入り前。

 

 

『ガーンジー島の読書会』メアリー・アン・シェーファー、アニー・バロウズ

  • 2014.06.26 Thursday
  • 22:59
メアリー・アン・シェイファー,アニー・バロウズ

メアリー・アン・シェイファー,アニー・バロウズ

 木曽さんちで紹介されていて読みたいなあと思っていた『ガーンジー島の読書会』を読了。

第二次世界大戦後のロンドンで、名前が売れ始めた女流作家ジュリエットが主人公。偶然、彼女の蔵書であったチャールズ・ラムの「エリア随筆・選集」を手にした、ガーンジー島のドージー・アダムズから届いた一通の手紙。そこから、ジュリエットとガーンジーの島の人々、そしてもう一人の主人公とも言えるエリザベスの物語が始まる。大戦時、ドイツ軍に占領されていたガーンジーの人々の苦難、自由な精神でそれに立ち向かおうとしたエリザベス。そのほとんどが書簡という形で描かれていく。

書簡なのでとても読みやすく生き生きとしていて、一気に読むことができた。占領下での悲惨な状況やつらい別れ、収容所での様子が描かれている箇所では胸が詰まるけれど、島の読書会の個性豊かなメンバーや、美しい自然、そしてジュリエットの親友ソフィーとその兄シドニー(仕事のパートナー)との愛情やユーモアあふれるやりとりに、時折くすっと笑いながら、最後はとても幸せな気持ちで本を閉じることができる。

「私が読書を愛するのは、それがあるからです。本の中で、ある小さなことが読み手の心を捉えると、その興味がべつの本へと読者を導き、第二の本の中の小さなできごとが、またべつの第三の本へと誘う。幾何学模様のように広がっていくのですー行き着く先はなく、ひたすら純粋な喜びのためだけに。」(ドージーにあてたジュリエットの手紙より)
 
ひたすら純粋な喜びのために、という言葉が心に響いた。作者のメアリーそのものが出ているような気がする部分だ。

衛生状態は悪く、食べるものは極端に不足、自由もない。そんな中で本を読むということ。そんな状況をとても想像できないのだけれど、そんなときだからこそ、本が人々の心を救い結びつける役割を果たしたのかもしれない。

それにしても、戦争はないに限る。自由に本を読み音楽を聴き、それを語ることができる幸せをあらためて噛みしめる。

ジュリエットの恋も大切な要素。彼女を取り巻く男性たち、とくに彼女に猛アタックをかけるアメリカの資産家のマーク・レイノルズは、なんだか憎めないキャラで(笑、映画化するとしたらこの役を誰にやってもらうか考えるだけでも、かなり楽しいかも。バラが似合う人じゃなきゃだめだな。

フランスにとても近いところにあるガーンジー島、まったく知らない場所だったけれど行ってみたくなった。イギリス王室属領だけれど、高度な自治権を有しているとのこと。主要都市の欄に「不明」って書いてあるのが渋い。

著者のメアリー・アン・シェーファーは、この本が最初で最後の著書で、完成を待たずに世を去り、姪の作家、アニー・バロウズが引き継いで完成させたとのこと。きっとすてきな人生を送った人なのだろうなあと想像する。

そして、この本を読んだあとは猛烈にお手紙が書きたくなること間違いなし。ただ、ネタと時間がないのだなあ(涙。そのうち私からわけもなく手紙が届いたりしたらきっとそれはこの本のせいです、お許しあれ(笑。


ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ〜『夏服を着た女たち』(アーウィン・ショー、常盤新平訳)

  • 2013.07.18 Thursday
  • 20:09
夏の夜、風呂上がりにシュパっとビールをあけられない下戸のわたしが飲むのは、カクテル用のシロップにソーダを注いだ、なんちゃってカクテルw。ライムもよし、カシスとかピーチのシロップだととてもきれいなピンク色になる♬

そんな話をしていたときにふと「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダ」という短編を思い出して、読み返してみた、この話。主人公のエディは、ニューヨークから田舎に移ってきたらしく、しきりにニューヨークを恋しがっている。

うだるように暑い、にぎやかな街でどんな途方もない、すてきなことが起こっているやら。トラックやトロリー・カーや乳母車が行きかうなかで、どんな勇ましい手に汗にぎる冒険があることか!かすれた叫び声やおどけた声、赤いペンキを塗った店先の明るい笑い声、その店では二杯三セントでレモン・アイスを売っている。十五歳の男の子にはほんとの滋養になる飲み物だ。

そんなエディは、今夜、初めてのデートを控えて、35セントの小遣いを大切に持っている。家の中ではピアニストの卵、弟のローレンスが「一二三四五」とカーネギーホール目指してピアノの練習に余念がない。と、練習に飽きたのかローレンスがやってきて「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダが食べたいな」という。練習するときはいつもそればっかり考えてるんだ「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダが食べたいな」、しかし、デートを控えた兄は35セントの軍資金を死守せねばならない。

二人して湖に向かう。その間ローレンスは口笛でブラームスのピアノ協奏曲2番を口ずさんで、兄にうとまれるw、いやはや。湖には持ち主のわからないボートがあった。怖がる弟をけしかけて二人でボートに乗っていたとき、持ち主の農夫がすごい剣幕で二人を怒鳴りつける。農夫の息子ネ―サンはローレンスに戦いを挑むけれど、ピアニストの卵ローレンスは、指をだめにするわけにはいかない。戦えと兄にけしかけれらても、じっと立ちすくんだままだ(これまた勇気ある選択だとわたしは思うのだけど)。

くやしさのあまり涙も出ない兄弟が家にたどり着いたあと、ローレンスはドスキン手袋をはめて出てくる。二人して農夫の家へいき、逆にネーサンに戦いを挑むローレンス。二人は決闘の場、森へと消え、エディと農夫は言葉を交わす。

果たして、互いに傷を負いながらも、さっぱりとした顔のネーサンとローレンスが戻ってきた。ローレンスの片目はつぶれていたが、もうひとつの目は「きらきら輝いて、男らしい不屈な光がやどっていた」。

とつぜん、エディはローレンスをとめた。「こっちの道を行こう」と右手のほうを指さした。「でも、家はこっちのほうだよ、エディ」
「わかってるよ、町へ行こう。アイスクリーム・ソーダを食べようや」とエディは言うのだった。「ストロベリー・アイスクリーム・ソーダを食べよう」

その夜のエディの初デートがどうなったかはわからない。
なんとなく、ノーマンロックウェルの絵が似合いそうなアメリカの男の子の話。






『神様のボート』と『ハレルヤ』

  • 2013.07.09 Tuesday
  • 23:30
この記事、だいぶ前に書いてたのですが、ようやくアップ〜〜。

NHKのドラマ『神様のボート』。予告編を観て気になってたけど、結局観たのは最終回の途中からでした。映画のような雰囲気がなかなかよくて、気になって原作も読んで。冷たい水が流れていくようなひんやりした心地よさ、大人のおとぎ話のような世界、けっこう好きかも。

あらすじは、こちら

実は、ドラマで何が一番良かったかっていうと、エンディングテーマなのです。レナード・コーエンの「ハレルヤ」のカバー(このドラマでは畠山美由紀さんという方が歌っている)。この「ハレルヤ」わたしは、スサンナ&ザ・マジカルオーケストラがカバーしたものを偏愛しております(下記の「Melody Mountain」に収録)。この曲のなんとも言えない寂々とした雰囲気や静けさの中に含まれたいささかの狂気が、このドラマにおそろしくぴったり。

歌詞の意味がわかんなかったので、調べてみたら、こちらに秀逸な解釈と訳が。読んでますます選曲に脱帽。
スサンナは先だって来日してましたね。聴いてみたかった。すてきなライヴだったようです。
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