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    英国の旅一日目 ロンドンー雨か涙か

    • 2019.06.22 Saturday
    • 23:38

    ようやく到着したヒースロー空港は雨だった。ロンドンへと向かう途次、雨に煙る緑の中に立ち並ぶレンガの家々。そしてその屋根には煙突、煙突、煙突!メリーポピンズの世界だ。煙の出ている煙突も、なんと現役なのね。長旅でへとへとになった頭もしゃんとしてきた。そういえば、学生の頃初めて書いた詩は「銀の雨」というタイトルで、見たことも行ったこともないロンドンの街を想像しながら書いた詩だったなあとぼんやり思い出す。静かに銀の雨よいつまでも降っていてね、という、こっぱずかしいことこの上ない詩なのだが、あれから40年(笑、その憧れの街に今いることを不思議に思いつつ、その夜は爆睡した。

     

     

    翌朝ホテルを出るときは曇り空、地下鉄アールズコート駅でオイスターカードを購入し、一路ロンドン塔へ向かう。混雑する地下鉄の駅で行先をおろおろ確認する私たちに親切な女性が「どこへ行くのか」と話しかけてくれ「こっちの線だよ」と教えてくれた。いい旅をと笑顔でにっこり。とても心がほっとしてありがたかった。混雑する車内にいささか緊張しつつも無事ロンドン塔に到着。入場料はずいぶん高くて驚いた(寄付つきで30ポンドちょっとだった)。歴史的建造物の保全のために必要なのだろうな。


    ロンドン塔

    小学生の頃、世界の歴史的建造物シリーズでロンドン塔とかタージマハルとか様々な写真とともに読みふけったのを思い出す。これがあのロンドン塔かあ〜。ロンドン塔といえば、何と言ってもヘンリー八世が思い浮かぶ。二人目の妻、アン・ブーリンが処刑された場所だなあ。しかし後からゆっくり案内を読むとなんとアン・ブーリンが処刑されたグリーン・タワーの見学を飛ばしてたことが判明(涙。見たかったなあ。あまりゆっくりは見学できなかったが、古びた室内の雰囲気を味わいつつ歩くと、ふいにタワーブリッジが見渡せる場所に出てびっくりした。

    タワーブリッジ

    テムズ川とタワーブリッジ。やはり絵になる。それにしてももうちょっと時間が欲しかったなあ。そうそう、ここのカラスには驚いた。実に立派な鷹みたいなカラス。「ロンドン塔からカラスがいなくなるとイギリスが滅びる」のだそうで、大切に飼育されているのだとか。日本でみるカラスとは全く違って、威厳のある姿はまるでここの主のようだった。

     

    修学旅行生や団体の観光客でごった返すロンドン塔をあとに、次の目的地のナショナルギャラリーへ向かった。ロンドン市内を見たかったのでダブルデッカーに乗車。ひどくなってきた雨のせいか渋滞に巻き込まれ、チャリングクロスまでずいぶんかかった。トラファルガー広場を横目にナショナルギャラリーへ入場。ここは無料で入れるというのがすごい。スコットランドの美術館も無料だったなあ。いい税金の使い方だと思う。美しく荘厳な建物の中に途方もなく大量の作品。圧倒されるなあ。

     

    ここも時間があまりなかったのでラファエロやフェルメール、ダビンチも見たかったけれど、印象派やターナーの作品のある部屋を中心に鑑賞。ターナーの作品、空気感がダイレクトに伝わってきてとてもよかった。印象派もすごい数がそろっている。夢中で歩くうち、ふと目に飛び込んできた大作、ポール・ドラローシュ 《レディ・ジェーン・グレイの処刑》(1833年油彩・カンヴァス ロンドン・ナショナル・ギャラリー蔵)に目が釘付けに。あああ、これもあったんだあ。中野京子さんの本や怖い絵展覧会のテレビ放映をみて、見てみたかった作品が目の前にある。ずいぶん大きな絵であることに驚きつつ、見入る。怖くて悲しい絵だけれど、美しい。背筋がぞぞっ。あどけない表情と、彼女のドレスの光沢と白さが胸に突き刺さる。この絵と出会えたのはほんとうにうれしかった。すごい絵だ。

    もう一枚、以前からすごく見たかった、フィンランドの画家、ガッレンカッレラの湖の絵を見つけたときも飛び上がりそうになった。こちらは逆に思っていたよりうんと小さい絵だったが、素朴な宝石のように静謐で透明感のある美しい絵だった。北国の空気がこの絵の中に封じ込められているかのよう。出入り口に近かったのでホルバインのあの有名な絵も鑑賞して外へ。ちなみにゴッホの「ひまわり」は出張中でした。

    ガッレンカッレラ

     

    すぐ近くのハーマジェスティ―ホールでのオペラ座の怪人の時間が迫っていた。

    ランチを済ませ、ホールへ。すごく小さな古い劇場だが高さのある造り。席はずいぶん上のほうで、座ると舞台がちょこっと見える程度、これでうまく鑑賞できるのかと心配だったが、それは杞憂だった。しかし、ここで今日一番の困難が発生した。空調なのか猛烈に冷たい風がじゃんじゃん来るのだ。うっかり開演前にコートを脱いでいたので、寒いことこの上ない。

    しかし、ミュージカルが始まってすぐ度肝を抜かれる。オークションシーンから一気にシャンデリが高いところへと引き上げられるのと同時に響くオルガンの効果、クリスティーナの美しい声、そしてファントムの登場。彼の声のすばらしさはなんだろう、体全体をとらえられるような声に一瞬で魅了される。ゆるやかに動く船、きらめく蝋燭の光、見事な演出だ。時にファントムの声が背後から響き、古びたホールはそのまま、ファントムの住むオペラ座となり、私たちもすっかり物語の中にいるような心地だった。

    後半、クリスティーナとラウルとファントムの間で繰り広げられる歌の素晴らしいこと。ラスト、ファントムの演技と歌にこめられた言葉にならない彼の感情がずしんと心に響く。すべてが終わり、仮面だけが残された瞬間、沸き起こる拍手の嵐。なんと素晴らしいのだろう。こみあげる涙をこらえて会場の外へ出たけれど、ついに耐え切れなくなってハンカチで顔をおおって泣いてしまった。同行のみんなもハンカチを手に涙をぬぐっていて、これを観れただけでも来た甲斐ががあったねえ、と。

    以前、映画は観たけれど正直なところ、それほど感動しなかったが、今回の観劇で180度気持ちが変わった。ロイド・ウェーバーさんごめんなさい。長い間人々に愛され続ける理由がわかりました。そして言葉がわからないのに、ファントムの切ない気持ちがこれほどまでに伝わってくることにも驚いた。知人の「ロンドンでオペラ座の怪人を見て、初めてファントムの気持ちがわかった」という言葉を思い出す。まったく同感です。ロンドンすごい。

     

    しかし、その夜、ランチのイタリアンと夜のサンドイッチが胃にこたえ寒さと疲れも重なって胃痛を起こし若干苦しむことになるおまけもついたのだった。

    とほほ。

     

     

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